闇夜の紅き月 第5話

(現実世界 メイン研究室)

突如、拳を机に叩きつけるような研究室内に響いた。

「くそ!どういうことだ!!」

拳を叩きつけた本人―>>1000博士―が叫ぶ。

その周りにいる研究員は必死にパソコンを操作している。

「まさか・・・しかしなぜ管理AIが暴走しているのだ!!」

その言葉に対して、誰も反応をしなかった。

しかし、突如研究員の一人が大声で>>1000博士に報告をする。

「博士!テスターがまた6人削除されました!!現在83名生存確認!!」

「くそっ・・・!!プログラマー班及び研究班はテスター全員の回避を務め、

 救急班は削除された意識を戻す緊急プログラム「リバース」の解凍を!!」

一通り指示を出し、>>1000博士自らもパソコンへと付きDream City内を監視する。

緊急プログラム「リバース」・・・・それは名前の通り緊急事態が発生の際、『AT』の行動をすべて停止させ、

Dream City内のテスター全員の意識を強制的に現実世界へと戻すことのできるプログラムだ。

あまりにも容量が大きすぎるのでかなり圧縮してある為、解凍の時間だけでも1日がかかってしまう。

「マズイ・・・・・・これでは・・・」

博士の言葉を遮って、研究員の慌しい声が響く。

「博士!!現実世界からDream City内へ干拓することができません!

 『AT』の緊急防御システムが99,9%発動!!」

「AT内に大量の未確認ウイルスが発生!

 『管理AI』がウイルスに感染して暴走を起こしています!!」

「『リバース』のプログラムが消失!AT自身が削除した模様!!」

次々と報告される悪夢のような『事実』。

>>1000博士は対応することが出来ずに、黙って巨大モニターに映し出されるメインコンピューターの映像を見る。

巨大モニターの画面にはさまざまな動物が光る武器を持ち所々で暴れていた。

そして、様々な所には動かなくなった動物と血があふれかえっている。

その惨劇を見た>>1000博士の脳内にある一つの言葉が浮かぶ。

「これはDream Cityなどではない・・・これでは・・・」

―悪夢の町 Nightmare Cityだ―

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Nightmare City 東区)

「速攻で倒す!!」

「うほ♪やっぱキミもなかなかの色男だ♪」

㎡は右の拳を力強く握り締める。

そして、「管理AI」へと走りだした。

「うおおぉぉ!!!」

「うほっ!キターーー!!」

後ろに振り上げた拳を全力で突き出し、敵を殴ろうとする。

だが、その攻撃はいとも簡単に避けられてしまった。

勢いあまって、コンクリートの地面に突っ込んでしまう。

「キミ外から来たテスターの分際でこの管理AI No…7『八頭身』とやるきなのかい?」

管理AI NO…4〜8 八頭身

㎡はすぐに地面から立ち上がり、相手をにらみつける。

全身白で、通常のテスターの2倍はあろうかという巨大な身長。

そして、顔には気味の悪い笑いを浮かべている・・・猫?

だが、一番目を引くのは手に持っている黄色に光る鞭だ。

「お前・・・管理AIなのに・・・こんなことしていいと思ってんのかよ!!」

「こんなこと?どんなことだい?」

八頭身はまるで何事もないかのように周りを見回す。

その行為が返って㎡の苛立ちを煽った。

もう一度、㎡は右腕に力を込めて八頭身へと飛び掛る。

「うおおぉぉぉらぁぁぁ!!!」

「うほっ!」

しかし、またもや軽々と避けられてしまった。

だが㎡はバランスを崩さずに地面へと着地し、次々とストレートを繰り出す。

「うほっ!積極的だね〜♪」

㎡はいくら拳を出しても、まるで当たっていない。

それどころか、激しい動きで自分自身の体力がどんどんと削られる。

”くそっ!当たらねえ!!”

突如、あまり攻撃をしなかった八頭身が手に握る鞭を撓らせた。

ーーーーー!!!!

「ぐあぁっ!!」

かなりの速さで飛来した光る鞭は㎡の左足に飛来した。

バチン!と弾けるような音とともに㎡は左足から崩れ落ちるように倒れる。

それと同時に、㎡の握られた右の拳は解けてしまった。

「うほっ!!これで終わりだぁ〜♪」

地に伏せた㎡を見るや否や、八頭身は右手に握り締めた光る鞭を大きく薄暗い空へと振り上げた。

上を向くことが出来ない㎡は音だけを聞いて、思いっきり目を瞑る。

”俺・・・死んでしまうのか?”

「うっひょーーー!!!!!」

八頭身は雄叫びを上げながら鞭を振り下ろす。

㎡は完全に戦意を喪失している。

しかし、その時だった。

「斬撃音」が㎡の耳に飛び込んできたのは。

ーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

「う・・・・ひょ・・・・?」

斬撃音とともに途切れた八頭身の雄叫び。

少し時間が経ってからバタリと何か巨大な物が倒れる音がする。

更にそれから5秒ぐらい経つと、どこからか青年の声が聞こえた。

「何あきらめてんだよ!この金髪ヘナチョコ野朗!!」

その声は不思議と聞いたことのある声。

㎡はゆっくりとまぶたを持ち上げ、その瞳で何が起こったのかを確認する。

”な・・・なんだよ・・・こいつ・・!?”

目の前に佇むのは、フサフサとした白銀の毛を持つ猫だか犬だかよく分からん獣。

そして右手には鈍い金属光沢を放つ巨大な剣を握っている。

「・・・・だ、誰だ!!」

㎡は立ち上がろうとするが、左足が思うように動かず立ち上がれない。

腫れ上がっている左足がズキズキと痛む。

「全く・・・・」

突如白銀の獣人が近づいてきたかと思うと、フサフサとした手を差し出してきた。

地面に伏せた㎡はその手を握り、何とか立ち上がる。

「で、誰だよお前」

若干、フサフサの毛触りが気に入った㎡はその手に残った感触を確かめながら問いかける。

その問いに対し、フサフサの生き物は「ハァ?」と顔をしかめながら答えた。

「まさかお前、俺が誰だか分かんねえのか・・・!?」

「・・・・ま、まさか!!!さ・・・サクヤなのか!!!??」

その獣人の声は㎡と12年間一緒だったメイド長「サクヤ」と一致している。

「まさか気づいていなかったのかよ!?

 お前、親不孝ならずメイド不幸か!!」

まちがいない。こいつはサクヤだ。

そう気づいた時には親友は大剣を肩に乗せてあさっての方向を向いていた。

黒い太陽と背を向けた親友。そして人気の無くなってしまった街。

不思議なことにこの組み合わせは㎡に不吉な予感を覚えさせた。

「おい、それよりひとつ言いたいがある。」

「な、何だよ・・・?」

突如、真剣な顔をして親友は㎡へと振り向いた。

その顔にはいつものあのサクヤとは思えないような厳しい表情を浮かべている。

「俺はさっき、お前を探してこの街を走りまわった。

 だから俺なりにこの世界を見てきたんだ。」

「な、何が言いたいんだよ?」

いまいち意味の分かっていない㎡にサクヤが言葉を付け加える。

「街の人間は・・・・殆ど『殺された』」

「っ!!??」

突然、突きつけられた事実。

更にサクヤは口を動かす。

「あの『管理AI』とかいうやつらが暴れまわって街全体が滅茶苦茶にぶっ壊されている。

 北も西も東も全部めちゃくちゃだ」

「じゃ、じゃあもうこの街で生き残っているのは俺とサクヤの二人だけなのか!?

 俺たちはどうやって元の世界に戻るんだよ!?」

つい、剥きなって叫んでしまった。

㎡の叫び声が人気のない東区を駆け巡る。

「落ち着け、㎡。

 西区のゲームセンターに生き残りが集まっているんだ。

 俺たちもそこに行くぞ。」

「そこに今、何人ぐらいいるんだ!?」

興奮してつい言ってしまうことがすべて大声になってしまう。

サクヤは顔を濁らせて反応する。

「さあな、とりあえず行ってみないと分からない。」

「じゃあ早く行くぞ!」

東区から西区へは、走って中央区を通り抜ければ20分足らずで行くことが出来る。

今、㎡の胸のうちにはしぃに対する希望が甦っていた。

”もしかしたら・・・ころねもそこに!?”

そんな思いが㎡の足を前へ前へと進めた。

周りの景色がどんどんとスクロールしていく。

後ろにはサクヤが重そうな大剣を背負いながら追いかけてきている。

「お、おい!㎡!そんな早く走ると管理AIに見つかるぞ!!」

だが、今の㎡の耳にそんな話は入らなかった。

今、㎡の胸の中にある思いは一つ。

”ころね!!そこに居てくれ!!”