闇夜の紅き月 第6話

Nightmare City 西区 ゲームセンター)

「で?今のところ生き残っているのは俺達合わせて5人か」

相変わらずゲーム機の音が店内を支配する部屋で、誰かがボソリと呟いた。

それに答えるように、他の声が呟く。

「執事、いつまでここに隠れているつもりだ?

 いつかここにもやつらが来るぞ?」

そういって、青い狐目の猫はゲームセンターの2階建ての窓から頭を覗かせた。

人っ子一人いない寂れた町には幾つもの死体と血があるだけだ。

誰もいないことを確認して、青い猫は頭を引っ込め、最初に呟いた者へと振り返る。

「執事・・・・流石にこのような時にもなれば、やはりパソコンで助けを呼ぶのか」

執事と呼ばれた狐目の緑の猫は下ろした顔を上げる。

彼はゲーム機の上に座り、膝の上にはノートパソコンが置かれていた。

執事は、そのノートパソコンのキーボードを目にも止まらぬ速さで叩いている。

「いそのよ、バカを言うな。

 俺がパソコンで何をするかぐらい分かっているだろう?」

その言葉に対し、いそのと呼ばれた最初の青い猫は妙に感心した顔で、

「流石だな執事、こんな状況下でもお宝探しとは。」

「こんな状況だからこそだ。

 今、この場にレイ様はいない。」

すっかり話の路線が外れてしまった、と注意する人物もいない。

いや、確かに人はいるのだがすっかり呆れ果てているようだ。

「ちっちゃいいその〜〜この太鼓の暇人(たいこのひまじん)難しいのじゃ〜」

気まずい雰囲気の中、一人の青紫色の髪をした人間の少女が幼げのある声を響かせた。

その声からは、とても今の状況が分かっていないということが読み取れる。

少女の両手には棒のような物が握られていて、その前には太鼓らしきものがあった。

いそのは呆れたように少女のいる方向を振り向く。

「シェアよ、こんな時に太鼓の暇人をやっている場合では・・・」

「キャーーー、クリアなのじゃ〜〜〜」

その声に完全に脱力したいそのは、また窓際までトボトボと歩く。

そして、また窓から外の様子を監視し始めた。

「ねえ、ひで君、僕たちどうなるの?」

二人とはまた離れた場所で、誰かがぽつりと虫の音のような声で呟いた。

それにひでと呼ばれた白いからだの『おにぎりの形をした頭』を持つ者が応答する。

「分からないワッショーイ・・・

 ルピアさんはどう思うワッショイ?」

ルピアと呼ばれた、黄色の髪を持つ人間はガックリと肩を落として答えた。

「たぶん・・・僕たちはもう・・・・」

その声は、彼が座っている小型のクレーンゲームから発せられるゲーム音より小さかった。

ひでもそんなルピアを見て、肩を落とす。

その時、窓際にいたいそのが声を上げた。

「執事!やつらが走って来たぞ!」

「いそのよ、今いいところなんだから邪魔をするn・・・な、なんだってーー!!??」

執事は、パソコンを放り捨ていそのの待つ窓際へと急ぐ。

そして、窓から顔を覗かせた。

その窓から見えた光景を見て、彼は緑の顔を青ざめる。

「まずいな・・・・」

ゲームセンターの前には大きな道路がまっすぐに続いている。

その道路を、一人(匹?)の動物が砂煙を上げながらここ目掛けて走ってきているのだ。

その光景を見るなり、彼は窓の縁に置いてあった黒光りをするピストルを手に取る。

そして、ピストルの弾を確認した。

「ちっ・・・弾は一発のみか・・・まぁいい。

 いその、お前はここで待っていてくれ。

 そしてもし俺に何かあったら・・・・・・・その時は『パソコン』を頼む」

「執事、そこは普通『レイ様を頼む』とか『シェアを頼む』とかじゃないのか?」

「いそのよ、何年間俺といっしょに暮らしているのだ?

 俺にとって命の次に大切なものはパソコンだぞ」

「・・・・・・・。」

硬直したいそのを無視して執事はゆっくりと、階段へと向かった。

そして、ピストルを冷汗で滑る手でしっかりと握り締め、ゆっくりと階段を一歩ずつ降りる。

執事が階段を下りるまでは特に何も起こらなかった。

しかし、ここからが問題だ。

このゲームセンターの1階にあるのは、階段への上り口と外へと通じるゲートがあるのみ。

そう、いま執事がいる場所はかなり狭いのだ。

”俺のピストル・・・しかも一発では致命傷になる可能性は低いし、

 この狭さではやつらの光る武器を避けることも難しいだろうな”

赤く塗られたゲームセンターの壁がいけないのか、執事の心臓の鼓動はかなり早まっていた。

”今のところ、俺が見たことのあるやつらの武器は3種類。

 一つは黄色に光る鞭のようなもの。

 一つは茶色に光る日本刀のようなもの。

 一つは紫色に光るエネルギー銃のようなもの。

 いづれにせよ、俺のピンチは変わらないな”

目の前にあるゲートは左右に開く自動ゲートで、しかもなぜか真っ黒なので向こう側が見えない。

つまりは、敵が予測できないのだ。

「・・・・さぁ、来い・・・」

10秒・・・30秒・・・50秒・・・・

執事が1階に着いて、そろそろ1分が経とうとしていた。

57秒・・・58秒・・・59秒・・・・

1分が経った。だが、何もおきない。

1分1秒・・・1分2秒・・・1分3秒・・・

ころねぇー!そこにいるのかぁぁぁ!!」

突如、街に鳴り響いた青年の声。

それと同時に、黒いゲートから黄色の毛を持った猫が飛び込んできた。

開いたゲートはすぐに閉ざされ、この狭い部屋には二人のみが残された。

執事はすぐにピストルの標準を猫に合わせる。

「く、喰らえっ!!」

「っ!!??」

執事はピストルの引き金を引き、弾を放つ。

その鉛の塊はきれいな直線を描きながら宙を突き進む。

一方、黄色の猫はその行動に目を瞑った。

ーーーー!!!!!

しかし無常にも鉛の塊は黄色の猫には掠りもせず突き進み、ゲートへと向かった。

そして、ゲートのガラスを突き破る。

無常なガラスが割れた音が執事の耳に入った。

「お・・・終わった・・・」

”もう、ピストルの中に弾は入っていない

よって、攻撃する手立ても無い

かといって、運動神経ゼロの俺に敵の攻撃を避けられるはずもない”

執事がこれから起こるであろうことを予想していると突如異変が起こった。

なぜか、ゲートの外で悲鳴が上がったのだ。

しかも、それは執事にとって聞き覚えのある声。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!???????」

しばらくの静寂。

だが、すぐにその静寂は破られた。

だれだぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!???

 俺に銃弾ぶっ放したやつはぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

突如、閉ざされていたゲートが左右にスライドされた。

そしてそこにいたのも執事にとって見たことのある人物?だった。

「さ・・・サクヤ!!!???」

「サクヤ!!!気をつけろ!!この緑のやつ・・・管理AIだ!!」

サクヤと黄色の猫はお互いに顔を見合う。

なぜなら、お互いにサクヤの名前を口にしたからだ。

「な・・・なんでお前がサクヤの名を知っているのだ?」

「お・・・お前こそ、なんでサクヤの名前知ってんだよ!?」

「お前ら・・・・何、勘違いしてんだよ!!!!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「はっはっは!!すまん、㎡」

「あっはっは!!いや〜俺も悪かったな」

唯でさえうるさいゲームセンターに更にうるさい大音響が響く。

その大音響に更に何者かの罵声が響いた。

「お前ら俺に何か言うことねえのかよ!!!!

 俺は危うく殺されるところだったんだぞ!!??」

全身がフサフサした白銀の動物・・・サクヤは自分の右肩を左手で指差した。

そこには僅かだが、フサフサした毛の先が焦げたように黒ずんでいる。

黄色の毛を持つ猫・・・㎡はそれを見て一言。

「つうかさぁ、お前さっきからごちゃごちゃうるせぇy・・・ぶべらっ!!!!!!」

「あれれぇ〜、㎡君。

 もう一度言ってくれないかな?俺、今さっき雑音が耳に入って聞こえなかったんだけどぉ?」

サクヤの全力フックが見事に腹に入った㎡。

あまりの痛みに㎡は床へと倒れた。

執事が慌てて倒れた㎡を介抱しようと近寄る。

そして、緑色の手で床と口付けしている㎡の肩を揺らした。

だが、いくら揺すっても彼は何の反応も示さない。

「・・・・・おい、サクヤ。気絶してるぞ」

「へっ、ざまあみろ・・・ってか執事生き残りはこれだけか?」

「まあ、そんなところだ。

 というか、そろそろ自己紹介を始めた方がいいだろう。

 名前が分からないと作戦を練ることもできない。」

そう言うと、執事はゲームセンターの端っこで固まっている二人のテスターを呼んだ。

同時にいそのも太鼓を叩いて遊んでいた少女を連れて、3人のいる中央へと向かってくる。

そして、ゲームセンターの中央に生き残りのテスターが集まった。

全員の顔を見た執事がまずは先陣を切る。

「皆、初めてみるやつもいるだろうから自己紹介から始めよう。

 まず俺の名前は執事、歳は17・・・」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

(???)

「おい、どうやら№7がやってくれたらしい。

 せっかくコードkoroneを発見したのに逃がしてくれたようだ。

 しかもたかがテスターに一撃で殺られている。

 №1桁のプライドがずたボロだな」

再び、暗闇の中で声が発せられた。

それに他の声が答えるように呟く。

「でも、おかげでコードkoroneの居場所が粗方つかめたモナ」

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!ったくよぉ!この作戦そもそもテスター全員の皆殺しだろ?

 何でこんなにこそこそ殺らなきゃいけないんだ!?」

「テスター全員の皆殺しだからこそ、だ。

 我々№1桁の実力を持つ者が激しく暴れれば、確実に容量がオーバーする。

 下手すればこの世界がフリーズして我々共々固まるかもしれんぞ」

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!じゃ何時暴れていいんだよ!!」

「・・・そろそろいいモナね。

 モララー、そろそろ第2ウイルスを撒くモナ」

モララーと呼ばれた最初の声は小さく笑いながら答えた。

「OK,ウイルスをばら撒け。

 これで5分後にはほぼ全てのプログラムがデリートされ、この世界の容量が爆発的に増える・・・

 №3よ、暴れていいのは5分後だ」

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!やぁっ〜と暴れられるぜぃ!!」

「それと、つー。

 コードkoroneを見つけても殺してはいけないモナよ?

 『あくまで』モララーに渡すモナ。」

つーと呼ばれた声はそれに答えるように叫んだ。

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!???めんどくせーな、オイっ!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「え〜と僕の名前はルピアです。

 な、なんか大変なことになったけど僕、頑張ります!!」

「・・・これで、全員の自己紹介は終わりだな」

「あ、あの〜そこで倒れている人の名前知らないんだけど」

そういって人間の姿をしたテスター、ルピアは床で気絶している黄色の猫を指差した。

それを見たサクヤは猫の代わりに紹介をする。

「え〜と流石闇三人集の3人は知ってると思うけど、こいつの名前は㎡。

 もといヘンタイだ。年は俺と同じ16歳だ。」

「まあ、実際の所ヘンタイなんていう通称ではないんだがな」

サクヤの隣から口を挟んだのは青い狐目の猫、いそのだった。

更にいそのの横から何者かが口を挟む。

「そういえば、君達はいそのとか執事とかシェアっていう名前だけど、それ本名かワッショイ?」

そのテスターの名前はひで。

白い体に三角形の頭を持つテスターはそう易々と見つけられるものではない。

というか、そのテスターはどうみても『おにぎり』なのである。

「いや、もちろんニックネームだ。

 本名は・・・・口にしたくはない。

 それより、そろそろ作戦を立てるぞ」

それは緑色の狐目の猫、執事が言った言葉だった。

その言葉に全員が息を呑んで見守る。

「まず各自、それぞれ自分の持っている情報をすべて教えてくれ。

 とりあえずはこのパソコンにまとめておく」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「で、大体分かったのはコレぐらいか・・・・」

執事はパソコンのキーボードを常人技とは思えない速さで打ちながら答えた。

ゲームセンターの音だけが執事の言葉に反応する。

「てか、あいつら何なの?まとめて言ってくれないか?

 ついでに俺たちがこれからどうすればいいのかも一気に言ってくれ」

その言葉に、遊んでいるシェアと気絶中の㎡を除いた全員が頷いた。

執事はパソコンを全員のいる方向へと向ける。

パソコンの画面にはどこで撮ったのか光る鞭を持った一匹の白い猫のような動物が映されていた。

「まずはやつらのことから話そう。

 やつらの名前は管理AI。

 本来、この世界の案内人を請け負っていたやつらだ。

 だが、ご覧の通り、外では管理AIが案内するどころか暴走している」

チラリ、と執事はゲームセンターの透明な窓ガラスへと視線を移した。

外ではさっきの喧騒が嘘のように静まっている。

「俺の予想だが、やつらはウイルスかなんかに感染しているんだ。

 見てみろよ、このウイルスの量を。」

執事は右手に握っていたマウスをダブルクリックする。

すると、パソコンの画面に謎の青いグラフが伸びた。

同時に、騒がしかったゲームセンターから音が『消えた』

起動していた周りのゲーム機の画面もすべて真っ暗になり、まるで電源が切れたかのよう。

気絶している㎡を除く全員の表情が固まった。

「フッ・・・このゲームセンターも感染したか」

ゲームセンターから音が消えたと思うと、次は天井から降り注いでいた白い照明も消えた。

だが、昼なのでそこまで障害はない。

異変を怪訝(けげん)がる様に執事は解説を続ける。

「これは新種のウイルス・・・・だと思う。

 おそらく、この世界の電子化されたものを『全て』バグらせるよう作られたものだ。

 なぜか知らないがこのパソコンだけは感染していな・・・・・いや、スマン。

 たった今、このパソコンも感染した。」

マウスをがむしゃらに動かすが画面に映っている矢印はビクともしない。

執事はあきらめてノートパソコンを閉じて、『投げ捨てた』

その光景を見た、サクヤと弟者は目を大きく見開く。

ーーーーー!!!!!!

空中できれいな放物線を描いたパソコンは重力に引かれて床に落ちた。

もちろんノートパソコンなので、画面とキーボードが真っ二つに分解される。

目を大きく見開いたまま、サクヤといそのは固まってしまった。

「し・・・執事・・・・いま、・・・何を?」

いそのはなんとか震える声を出して、執事に問う。

しかし、執事は至って平常に言葉を返す。

「パソコンを投げ捨てた。

 使えないパソコンなど今は必要ない。

 それだけのことだ」

ゲーム機がウイルスによって壊れた今、ここに音は一つもなかった。

静寂が店内を支配する。

その静寂を破ったのは兄者だった。

「それより、今から言うことをよく聞くんだ。

 これからの『作戦』のことだからな」

しばらく我を忘れていた5人はその言葉にゴクリ、と唾を飲んだ。

意を決したように執事は口を開く。

「まず、どうやってここから出るかだが・・・2つの事を今からしなければならない。

 一つはこの街にいる生き残りのテスターを集めること。

 そしてもう一つは・・・・」

―南区のRAPへと行くこと―

「あ・・・RAP?」

サクヤが震える声を口から漏らした。

執事はそれに答える。

「ん?聞いていなかったか?南区には現実世界へと戻ることの出来る機械が置いてあるんだ。

 誰かがそこへ行き、現実世界の1000博士に事を伝える。」

しかし、次はルピアが口を開いた。

「で・・・でも、確かわざわざRAPに行かなくともこの辺にあるコンピューターを使えば・・・」

「できればとっくにやっている。

 このゲーセンに逃げ込んできた時、そこにあるのを使ってみたが完璧に壊れていた。

 おそらく、他の物より早くウイルスが感染したのだろう」

そう言うなり執事は横目で、ゲームセンターの端っこでひっそりと佇んでいるATMのような機械を睨み付けた。

やはりその機械の画面も真っ暗になっていて動きそうにない。

さらに執事は話を続ける。

「話を戻すが、誰かが現実世界に行っている間やつらから身を守る力も必要だ。

 そのためには、生き残りのテスターを探しだして団結しなければならない。

 というわけで―――――――」

「ちょっと待つワショーイ」

突如、執事の話に口を突っ込んだひで。

このシリアスな場面で軽い言葉を放ったひでを全員が見つめる。

「ちょ・・・そんな目で見ないで欲しいワショーイ・・・

 ちょっと考えたんだけど、すべての機械はウイルスで止まっているはずだよね?」

「ああ、その通りだ」

「でも、それじゃあ南区のRAPも止まってるはずじゃないかワショーイ?」

 「ノープロブレム(無問題)

 RAP・・・いや南区だけはいろいろとこの街とは隔離されている。

 だからウイルスも感染してはいない・・・・と思う。」

「なるほど」とひでは納得したように頷いた。

「だが・・・ひとつ問題があるんだ」

執事がさりげなく放った言葉。

だが、『問題』という単語に全員が息を呑んだ。

ピリリとした緊張がゲームセンターを駆け巡る。

「俺が一度管理AIと一線交えた時に、その管理AIが言っていたことなんだが・・・

 非常に奇妙な事を言っていたんだ。

 『お前らはもう逃げられない。

 なぜなら、この街には我らの何十倍も強い『コード1桁』が10人もいるのだからな

 そして・・・お前らテスターは我ら管理AIによって全員死滅させられる』とな」

「コード一桁・・・・気になるな」

胸の前で腕を組み、眉間に皺を寄せたいその。

その言葉に全員が頷いた。

「やつらは俺たちテスターを全員、殺る気だ。

 つまり、有一の逃げ道であるRAPにはその『コード一桁』が待ち伏せしているに違いない。

 もちろん逃げ出そうとしたテスターを殺るためにな」

その言葉は店内の空気を凍らせた。

執事はまた横目で外の景色を見る。

外は日食のせいで薄暗く、まるでゴーストタウンのようだ。

しばらく誰もが目の前に突きつけられた現実に言葉を出さなかったが、

10分ぐらい時間が経つといそのが声を出した。

「で、執事結局どうするのだ?」

「まずは誰が南区へ行くか考えよう」

全員が言葉を失った。

それもそのはず、彼らはまだ10代の子供。

誰だって死にたくないはず。

音を失った店内で、突然誰かがボソリと呟いた。

「じゃあ俺が行くよ」

「「「「「「っーーーーーー!!??」」」」」」

突然聞こえた青年の声。

それは他の誰でもない―――㎡の声だった。

「なんか盛り上がってんじゃん。俺、その南区って場所に行くよ」

そんな軽い調子で声を出す㎡をサクヤの怒声が襲った。

「おい!お前死ぬかも知れないんだぞ!?気が狂ったんじゃねえのか!?」

「は?たかが南区に行くだけだろ?何で死ぬんだよ?

 そんなことより俺には大切な人がいるんだ。早くその人を助けたい」

サクヤに肩を掴まれ、思いっきり揺さぶられる㎡。

そんな㎡を執事が問う。

「㎡、本当にそれでいいのか?」

「うん、だってどうせ誰かが行かなきゃいけないんだろ?」

間髪無く決意の言葉を表した㎡。

その目に迷いは無かった。

「最後に・・・」と執事は話を続ける。

「㎡・・・お前いつ頃目を覚ました?」

「え?・・・・執事が『まずは誰が南区へ行くか考えよう』って言った時」

「「「「「「・・・・・」」」」」」

全員が言葉を失った。

中には「バカだ」と呟く者もいた。

「・・・じゃあ南区担当は㎡ということだ。

 ㎡、お前は何をすればいいか分かってるのか?」

「さあ?」

「はぁ〜〜・・・・とりあえず㎡。

 お前は南区のRAPに行って現実世界へ戻るんだ。

 ついでにもし生存者を見つけたらいっしょにRAPに連れて行け」

言うことをすべて言った執事は何かが吹っ切れたように喋らなくなった。

そんな執事を見て㎡もなんだか変な気分になる。

「・・・し、執事、やっぱりパソコンが無いから・・・」

「バカ言え、ただちょっと疲れただけだ。

 じゃあ今から担当を決める。

 まず北区の担当は―――」

「俺がやるよ、あの辺なら俺行ったことあるから地形も分かる。

 それにあそこなら生存者も多そうだからな」

と挙手したのはサクヤだった。

じゃあ自分も、とばかりにルピアも一歩前へと踏み出す。

「じゃあ僕とひで君はこの辺の西区を探すよ(本音はこの辺は隠れる場所が多いからなんだけど・・・)」

「フム、じゃあ俺たち3人は中央区と東区を探すか」

全員の担当が決まり、それぞれの道が開かれた。

執事は「じゃあ次は・・・」と意味深な言葉を呟きながら後ろを向く。

しかし、すぐにみんなの方向へと向き直った。

「お次は武器の配分だ。

 まさか肉弾戦で管理AIに勝てる訳も無いからな」

「え?武器なんてあるんですか?」

『武器』という聞きなれない言葉にルピアは戸惑う。

大丈夫、といった顔をしながら執事は頷いた。

「ああ、腐るほど・・・って訳じゃないが一応全員分はそろっている。

 まず・・・サクヤお前は武器いるか?」

「いや、私はこの太刀とナイフあるから十分」

「じゃあサクヤは武器なし。

 で、次はルピアとひでの武器だが・・・・」

ゴクリ、二人分の息を呑む音がリアルに店内に響いた。

「お前らの武器トラックな」

「「(ちょ!!トラックは武器じゃなーーーいっ!!!!!)」」

「大丈夫だ、何も言わなくても分かる」

「「(分かってなーーーいっ!!!)」」

「だから、荷台にレールガンやら機関銃やらいくらでも積んである」

「「強っ!!!」」

一通りの漫才?を終えた後、執事はひでへと金色の鍵を投げた。

ひでは一瞬鍵を落としそうになったが、なんとか寸前のところで掴みなおす。

鍵をひでが受け取ったことを確認すると、執事はいそのとシェアの方向へと向き直った。

「お前らにはこのピストルだ。弾はあとで箱ごと渡す」

そう言いながら執事はどこからか2丁の黒光りするピストルを取り出し、二人へと渡す。

「お前ら、使い方は分かるな?」

「ああ」

「できるのじゃ」

最後に執事はボケーっとしている㎡へと振り向いた。

残念そうな顔をして㎡は言葉を放つ。

㎡をどん底へと突き落とす言葉を。

「すまんが、ギコ。お前武器無し」

「へ?」

「だから・・・武器無し」

「・・・・・って、うぇぇぇmhaegvfewsxmicui!!!!!!!!!!!?????」

あまりの驚きように執事は少し引きつつ苦笑いを作る。

「冗談、冗談・・・ほらよ」

そう言って彼をどん底から引き上げると共に、黒光りするピストルを放り投げた。

㎡は慌ててそれを受け取る。

「ちょwwお前、暴発したらどうするんだよ!」

「大丈夫、ちゃんと安全ロックしてある」

㎡は受け取ったピストルを不服そうに握りなおした。

サクヤは肩に乗せている太刀を重そうに握りなおした。

執事は壊したパソコンをチラリと見つめた。

いそのはピストルの安全ロックを外した。

シェアは何が起こったのか分からずにボーとしていた。

ルピアはひでの握っている鍵を見つめた。

ひでは鍵をぎゅっと握り締めた。

「それじゃあ・・・・みんな・・・・」

――死ぬなよ!!!――