闇夜の紅き月 第3話

(セントラルビル34階 研究室5)

「博士!120人全員の意識がDream Cityに転送したのを確認しました!」

若い研究員の声が聞こえた。

それに>>1000博士は渋い声で答える。

「よし!よくやった!

 それでは、連絡班はメインコンピューターに着きテスターとの連絡。

 監視班はAT室へ行きATの監視を頼む。

 ATは我々人間がいないと何をしでかすか分からないからな」

>>1000博士の発言が終わると同時に、幾つもの足音が研究室5から遠退いていった。

(Dream City 中央区

「・・・・・ん?ここは・・・?」

俺は突然、意識が戻った。

さっきのあの女の子の声は・・・・なんだったんだろう?

ま、いいや。と思いつつ俺はゆっくりと目を開けて周りを見渡してみる。

しかし、すぐに閉じた。

”え?ちょ・・・マジですか?”

いやいや目の錯覚だ!うん、そうだ!そうに違いない!

これは砂漠でよく見る蜃気楼(しんきろう)と同じ現象なんだ!そうじゃないと困る!!

㎡は一瞬だけ見えた景色を自己流に解釈して、もう一度目をあける。

「・・・・いやいやいや!!なんでぇーー!!??」

㎡の目には知り合いが映っていなかった。

いや、人間自体が映っていない。

「ハハハ・・・」

そう、㎡の周りには犬やら猫やら熊やら・・・動物しかいなかったのだ。

しかも色がすごいカラフルで二本足で直立に立ち、人間の言葉をしゃべっている。

そして、今いる場所は見知らぬ街だった。

空は晴天、前はビル、右も左もビル・・・・まさに都会だ。

㎡は混乱する頭で今の状況を考えた。

え〜と確か俺は友人と何かの計画に参加して、ナンパできそうな女探して、カプセルの中に入って(以下略)

しかし、なぜここにいるのか一向に分からなかった。

「・・・・?」

ふと、自分の手を見てみるとそこには人間の手ではなく太い棒みたいなものが目に映った。

それは自分の意志で動くし、腕のようにも見えないことには無い。

㎡は疑問に思い、隣にあったビルのガラスを見てみると・・・

「・・・・・ちょ・・・ちょ・・ね、猫〜〜!!??」

ガラスの向こうには自分ではなく猫がものすごい顔でこちらを見ていた。

㎡は手っぽいもので体を触って自分なのかと確認するがすべて現実だった。

黄色い体に、邪魔になるぐらい大きな耳、目と口しかない簡素すぎる顔、飛び出た2本のひげ。

明らかに㎡はこの体の正体を知っている・・・はずだった。

「・・・・・・なんだったけ?この姿知ってるような・・・・あり?なんかどこかで・・・」

しかし、どうも思い出せなかった。

気を取り直してガラスに向かってさまざまなポーズをとってみる㎡。

うん、なかなかイケてるぜ俺。

自己陶酔(ナルシスト)に浸りながら㎡はこれからのことを考え始めた。

(現実世界 セントラルビル34階 AT室)

うすぐらい研究室には巨大な機械『AT』が聳え立っていた。

その『AT』はピカピカと小さく赤や黄色に点滅している

まるで『AT』自体が意思を持っているかのように。

「おい、管理AIの調子はどうだ?」

「大丈夫・・・だが」

どうやらこの声はさっきテスターに説明をしていた2人のようだ。

途中で声を濁した一人の研究員に違う若い研究員が口を挟む。

「どうした?」

「プログラム『korone』がAIの集団とは離れた場所にある・・・」

「なんだ、そんなことか」

若い研究員は「どうでもいい」とでも言いたげな声質で近くのソファーに座った。

その行動に対し、最初の研究員が声を荒げる。

「君!そのような軽率な行動は・・・」

しかしすぐに、その研究員は口を閉じた。

なぜなら若い研究員が睨み付けていたからだ。

「おい、ここの主導権俺にあるんだクソじじい。

 管理AI?ハッ!バカバカしい。

 所詮、あんなのは『プログラム』なんだよ。意思なんか持ってると思うか?

 放っておきゃいいんだよ。」

その言葉には誰も返事をしなかった。いやできないのだ。

誰も返事ができないと知ると満足そうにフンと鼻を鳴らし彼は研究室の高級イスに乱暴に座る。

イスはしばらく「キィキィ」と音を立てたが、すぐに治まった。

「さあてと、この実験が成功したらたんまり金儲けしてやる・・・」

この時はまだ誰も気がつかなかった。

研究員にも分からないほどの小さな異常。

それは『AT』内の容量、つまりプログラムが増えていることだった。