闇夜の紅き月 第二話

(セントラルビル34階)

とある暗闇の1室で男の声がした。

声質からして青年だろう。

「>>1000博士、現在9:59分です。

  そろそろテスターの皆さんが来る頃では?」

その声に対して、「>>1000博士」が声を返す。

「おお、もうそんな時間か。

それでは、案内班はテスターの皆さんを集めてくれ」

「はい、それでは」

 

コツコツという靴の音が外に出て行ってしまった。

おそらく、今回の実験の研究員だろう。

薄暗いゴチャゴチャした研究室の中で>>1000博士は一人になってしまった。

>>1000博士は近くにあった椅子に腰掛け、近くにあったパソコンのキーボードに指を置く。

そして、ものすごいスピードでキーボードを叩き出した。

「あとは・・・この子達の様子を見るだけだな」

>>1000博士のパソコンには「様々な猫のようなキャラクター」が動いていた。

(セントラルビルエレベーター内)

「くそっ!狭い!狭すぎる!!」

満員状態となったエレベーターの中で㎡が叫んでいる。

現在、エレベーターの中にいるのは㎡、サクヤ、いその、執事の4人だった。

シェアは歩いて階段を登ると言い張り一人で階段を登っていったので、ここにはいない。

”やっぱりそっちの方がよかったかも知れない”

内心、㎡はそんなことを思いながらもエレベーターの中でもがいていた。

「おい、そろそろ34階に着くから大人しくしろ」

執事の注意で㎡は大人しくなったものの、

いまだにエレベーター内ではむんむんとした熱気が伝わっている。

”このエレベーターの中に他人がいなくてよかった・・・”いそのはそんなことを考えていた。

(セントラルビル34階)

「ふぅ〜やっと出られたぁぁ!!」

「㎡、うるさい」

なんとかエレベーター内から脱出した㎡たちはすぐにシェアと合流して、34階の廊下を歩いている。

「研究室は・・・・ここだ」

執事が立ち止まった場所。

そこはたくさんのドアが立ち並ぶ中のひとつのドアだった。

ドアには「実験室5」と書かれている。

㎡たちはその部屋の中へと入っていた。

(セントラルビル 研究室5)

「ようこそ、皆さん。

 わが会社の新発明『Dream City』のテスターになっていただいてたいへんありがたく思います。」

㎡達を含め、たくさんの人がこの広い研究室に集まっていた。

研究室の中は思ったより結構広く小学校の体育館並みの広さがある。

ちなみに、部屋の両側にカプセルのようなものが大量に並んでいた。

で、現在>>1000博士の演説が始まったところ。

「なあサクヤ、どんぐらい人がいるんだ?こりゃ100人ぐらいいるんじゃないのか?」

隣でさっきからそわそわしている㎡に

”いい加減しろ”といいたげな顔でサクヤは答える。

「さあな、私が知るか」

「約120人がこの実験に参加しているらしい」

サクヤに変わって執事が㎡の質問に答える。

その手にはDream Cityのパンフレットが握られていた。

「で、あるからにして、決してDream City内の管理AIへの暴力は・・・」

㎡はいい加減>>1000博士の解説に飽きてきたようだ。

言葉が右から入って左に抜けている。

「なぁ〜いったいどんだけ続くんだよ?」

「知らん」

㎡はとりあえず、周りを見渡してみた。

中には少年少女、青年、中年など様々な人間がいる。

いろんな人がいるんだな〜と㎡は思いつつも実は探している人間がいた。

それはもちろんナンパできそうな女性である(笑)

「おっ!?おい、サクヤ!あそこにいる彼女なんかどうだ?」

「ん?おお〜結構いいじゃね〜か・・・・ってありゃ彼氏いるな」

「なんで分かるんだよ?」

「オーラ」

㎡はサクヤの言葉に落胆し、とりあえず他の人を探すことにした。

が、ちょうど>>1000博士の解説が終わってしまう。

それと同時に若い研究員が口を開いた。

「もし分からないことがあったらその時は、

各ホテルや店などにある電子コンピューターにログインしてください。

すると、この現実世界の研究員につながります。

そして、Dream Cityから出たい時は南区にあるログアウトポイントに向かってください。

電車も途中まで続いています」

解説が終わったと同時にまた他の研究員が口を開く。

「前にも説明したと思いますが、皆さんには当選してもらった際、

銀行にお好きな金額を払っていただきましたね。

 あれはDream City内でのお金で、実際に使ってもらいます。

金額は先日、封筒で送った『IDカード』に表示されます。

 なくなった時は現実世界に戻って補充してください」

「そういえば・・・俺6000円も振り込んだんだっけ」と㎡は思い出す。

腰につけているデジタルカードを見ると「6000円です」と表示されている。

高校生である㎡に6000円は痛かった(ちなみにバイトで稼いだ金)

「すべてはここにある人工知能『AT』が作り出した世界です。

 1週間の生活を存分に楽しんでください!」

Dream Cityでの説明を受けた㎡達は研究員の指示に従ってカプセルのような物に入った。

㎡はてっきり、機械だらけの重々しい場所に入らないといけないと思っていたのだが、

中にはフカフカのマット?っぽい物が敷いてあり、思ったより痛くはない。

全員がカプセルの中に入ると、博士と研究員が何らかの機械を操作し始めた。

㎡はこれからいったい何が起こるのだろうとカプセルの中で目を血走らせながら待っていると、

突然、耳に機械的な男性の声が聞こえた。

「それでは夢の仮想空間『Dream City』を楽しんでください!」

「やっべ・・めっちゃワクワクするぜ!」と思いつつもこれからの生活を想像する㎡。

しかし、突如㎡の耳に謎の言葉が入った。

「来ないで!こっちに来ちゃだめ!!」

それは明らかに少女の声だった。どうやら泣き叫んでいるようだ。

不思議とそれは聞いたことのあるような声。

だが、その言葉の直後、㎡は気を失ってしまった。