暗闇に閉ざされた悪夢の街。

その悪夢の街で自らの命を、大切な者の命を、護るための”戦い”が始まろうとしていた。

Nightmare City 西区)

元はとても賑やかだった西区、商店街。

しかし今ではもはやゴーストタウン化して、人っ子一人見当たらない。

あるのは所々に散乱している瓦礫の山とテスターの死体だけ。

ーーーーーーー!!!!!

突如、西区に響き渡ったエンジン音。

それと同時に、悲鳴も上がった。

「ギャーーーーーー!!!!キモいよーーー!!!!!!!」

「まってぇぇ!!!!そこの色男ぉぉぅ!!!!!!!!」

「ぎゃーーーーー!!!!ひで君!!!もっと早く走ってぇぇっ!!!!!!」

「もう全力でとばしてるわっしょーーい!!!!」

西区の直線道路を全速力でとばしている軽トラック。

そのトラックを運転していたのはひでだった。

明らかに免許を持っていないようには見えないハンドル捌きで街中を爆走している。

荷台ではルピアが泣きながら叫んでいた。

そしてその軽トラックの後ろには、とてもつもなく大きな猫の姿をした管理AI「ネバー」が走ってついて来ている。

「お〜〜〜い!!!待ってくれよ〜〜う!!!!」

「キモすぎる〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」

ルピアの手には薄暗い太陽光によって黒光りする機関銃がギュッと握り締められている。

だが一向にルピアがその機関銃の引き金を引く気配はない。

ルピアの額と目からは滝のように汗と涙が流れていた。

そもそも事の始まりは30分前だ。

・・・・30分前・・・・

ルピアとひでは軽トラックに乗って西区を駆け巡っていた。

すべては生き残りを見つけて、この世界から脱出するために。

途中で電気スタンドによって、電気を供給する以外(この軽トラックは電気自動車)はこの車からは一度も降りていない。

しかし1時間ほども西区を探し回ったが、テスターらしき者は依然として見つからなかった。

いい加減飽きたルピアは運転しているひでと会話を始めていた。

「ねえ〜ひで君〜〜」

「何だわっしょ〜い?」

「平和だね〜〜」

「平和だわっしょ〜〜い」

その会話は悪夢の町で生き抜こうとしている生存者には到底思えない。

ひではハンドルを右に回して十字路の一つの角を曲がった。

それと同時に荷台に乗っていたルピアがひでに向かって叫ぶ。

「ひで君!!人だぁ!!人いたよーー!!!!」

ルピアは荷台から腕をまっすぐに伸ばす。

その腕の延長線上には一匹の白い大きな猫がいた。

その大きな猫は走っている軽トラックを見るなり物凄いスピードで走ってくる。

そして一言呟いた。

「わおっ!なんとこんな街で色男発見♪」

この声に反応してもう2人(匹?)の同じ生物が十字路の角から飛び出してきた。

3人が並んでキモい走りかたで、こちらへと向かってくる。

そして2人が黄色く光るものを持っていた。

一人は黄色に光る車輪を手足につけて車のように走り、

もう一人は光るプロペラを尻につけて低空飛行をしている。

「お〜いそこの車の荷台に乗っている色男ぉぉ〜〜〜♪」

「まって♪」

「くれぇ〜〜〜〜〜い♪」

大声でそれらの言葉を発した3人の生物を見て、荷台に乗っているルピアは叫んだ。

心の底からの叫びを。

「キモっ!!!!キモすぎる!!!!!」

一方、ひでも荷台のルピアの様子がおかしいことに気づき窓から頭を出して後ろを確認する。

しかし、すぐにひでは顔を引っ込めアクセルを踏む足に力を入れた。

そして流れ出てくる汗を片腕で拭いながら大声でルピアに叫ぶ。

「ルピアさん!あいつら管理AIだ!!光る武器を持ってるわしょい!!」

「ちょっ!マジ!!!???」

突如大きなエンジン音が鳴り、スピードを上げた軽トラック。

危うくルピアは荷台から転げ落ちそうになった。

「逃げろわしょーーい!!!!」

・・・・現在・・・・

「キモいよォォぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

「ルピアさん!!銃を撃つわしょい!!」

「さっきやったけどコレ・・・弾が一発も入ってないんだよ!!!」

ルピアはもう、すぐ近くまで近寄ってきている八頭身に銃口を合わせる。

そして引き金を引くが、何一つとして起こらなかった。

「なんだってーー!!!!ルピアさん!!それヤバイわっしょい!!!」

「へぇ〜〜ルピアさんって言うのか♪」

「ねえねえルピアさん♪」

「僕達と♪」

「「「やらないか?」」」

見事にハモったその言葉にルピアは泣き叫びながら答える。

「キーーモーーーいーーよーーーー!!!!!!!」

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Nightmare City 中央区

「ん・・・?なんだコレ・・・」

巨大なビルが縦横無尽に立ち並ぶ中央区

そのビルのために道路のほとんどは暗い影で覆われている。

そんな一区で、1200ccのバイクを乗り回している執事はバイクのミラーを見つめていた。

「なんだコレ・・・赤いぞ・・・」

そのミラーにはビルとビルの間を飛び跳ねる「赤い影」が映っていた。

執事は不審に思い、バイクのスピードをうんと上げる。

同時に、影の追いかけてくるスピードも上がった。

執事は何が後ろにいるのか確認しようと後ろを振り向いた。

ーーーー!!!!

「っ!!!??」

突如、飛来してきた赤く光るナイフ。

執事はそれを避けきれずに、バイクに当ててしまった。

しかも運悪くナイフが刺さったのは燃料タンク。

チョロチョロと燃料がタンクからこぼれ始めた。

執事は冷静に呟く。

「マズイ・・・光る武器ってことは管理AI,しかもこりゃ雑魚レベルじゃないぞ・・・?」

と呟くなり執事はどこからか携帯電話を取り出す。

そして執事が携帯電話を耳に当てるのと、大量の光るナイフが飛んでくるのは同時だった。

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Nightmare City 中央区 中央ビル)

まったくと言っていいほど人気のない荒れ果てた中央ビル。

至る所に転がっている電子機器は全くといっていいほど動く気配がない。

ビルの中は静寂が漂っていた。

突如、その静寂を破る電子音。

どうやらそれは携帯電話の音だった。

音とともに震えている携帯電話をどこからか出てきた一人の少女がイタズラに取る。

「はい、こちら○飾区○有公園前派出所・・・って何コレ?雑音ひどすぎ・・・・・」

携帯電話から発せられる雑音。

少女はなんとか頑張って耳を澄ます。

すると、聞き覚えのある声が雑音の向こうから聞こえた。

「シェアか!?俺・・だ早・・くいそ・・のに変わ・・・・ってく・・・れ・・・・・・!!」

「は〜い」

執事の焦っている声とは真逆に呑気にシェアは返事をした。

そして中央ビルのすべてのパソコンを弄っているいそのへと携帯電話を渡す。

いそのは執事からの電話だと悟り、すぐにシェアから携帯電話を受け取った。

「執事か、どうした?」

「どうしたじゃない!!!!!今管理AI、しかもメッチャクチャ強いやつに襲われてる!!

 しかもさっき燃料タンクがナイフに飛んできて、ガソリンが漏れ出した!!」

「OK,執事落ち着け。

 燃料タンクがナイフに飛んでくることはありえない。」

「んあ!!??とりあえず俺がさっき言ってた『あの作戦』をやるぞ!!

 用意しとけ!!!」

「分かった!」

といそのが呟くと同時にプツリと切れた携帯電話。

その携帯電話を床に置くと、いそのはどこからか一つのピストルを取り出した。

そして弾を確認して、シェアへと振り向く。

「シェア、あの作戦覚えてるよな?」

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Nightmare City 北区 電車内)

「・・・・・でこれどこに行くつもりだ?ええ?」

とりあえず、行き当たりばったりで電車に乗り込んだサクヤ。

しかし電車に乗ったはいいが、この電車が何処に行くのかまったく検討がつかなかった。

「まったく・・・確か駅は三つしかねえから、今北区で次が中央区・・・で次が南区か・・・

 どうせなら中央区で降りて執事たちと合流でもしますかな」

ガタン、ゴトン!と揺れる電車。

その揺れ方が気持ちよく、サクヤはコクリコクリと居眠りを始めた。

しかし、その居眠りも僅か30秒で終了することになる。

ーーーーー!!!!

「っ!!!?????」

突如、電車内に響いた轟音。

と同時に電車の天井に開いた大穴。

サクヤが驚いて言葉を出す暇もなく、その穴から緑色に輝くロープがサクヤへと伸びてきた。

「な、なにゃっ!?」

ロープはサクヤに絡みつくとすぐに電車の上へと引っ張りあげた。

「おわっとっ!!!!!」

ロープから開放されたサクヤはバランスを崩して電車の上でゴロゴロと転がった。

しかし、すぐに持ち前の身体能力で跳ね起きる。

そして目の前にいるロープを使ったと思える生物を睨み付けた。

「ずいぶんと手荒なマネしてくれるじゃん。

 お前、そんな顔して実はドSだろ?」

サクヤの目の前には緑色に輝く変なものを持った白い猫がいた。

その猫の顔は表情に乏しい、と言えるほど無表情である。

「お前・・・その武器ってことは管理AIだな?

 確か執事が言ってたぜ?光る武器を持ってたらそれは管理AIだって」

白い猫はやはり表情一つ変えずに、答える。

「・・・いや〜僕は管理AIじゃないモナ。

 君の気のせいモナ」

「うそつけぇ!!!いくら無表情でもそんなバレバレの嘘、5歳児でも分かるわボケェェ!!!!」

電車の上で猫に向かって人差し指を突き出すサクヤ。

猫はしょうがない、といったふうに首を振った。

「バレちゃしょうがないモナ・・・。

 でも自己紹介するときは自分から名乗るものモナ」

「いいだろう!!教えてやるぜ!!お前のそのミジンコ並に小さい脳みそに焼き付けておけ!!!!

 俺の名前は神月 裂夜!!!通称サクヤだぁぁぁ!!!!!!!!バァ〜〜ン!!」

最後に自分で「バァ〜〜ン」と効果音をつけて、ファイティングポーズをとったサクヤ。

思い沈黙が電車の上に漂う。

猫は口に出す言葉をしばらく見失っていた。

しかし、しばらくすると猫は言葉を出す。

「・・・・・ぼ、僕の名前はモナー

 君の言ったとおり管理AI№…2モナ」

管理AI№…2 コードMona  モナー

「がぁーーっはっはっは!!変な名前!!!」

「・・・・・・・・・・・キモッ」

その一言で完全にキレたサクヤ。

突如、無言になりナイフを頭上に構えた。

同時に、モナーもその手に持つ緑に光る槍のようなものを腰の辺りで構える。

沈黙と殺気が漂う電車の上。

しかし突如としてその沈黙は破られた。

「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」

最初に動いたのはサクヤだった。

ナイフを頭上に持ち上げたままモナーへと走る。

そしてナイフを力の限り振り投げた。

「そんなちゃっちい武器、俺が叩き切ってやる!!!!」

「・・・・無駄モナ」

ーーーーーーーー!!!!!!!!

地下に響いた金属音。

サクヤは自分の手に返ってきた衝撃で何が起こったのか瞬時に悟った。

自分の攻撃は防がれていると。

槍のような物で頭上からの攻撃を防いだままの状態でモナーは呟く。

「ついでに僕の武器も紹介するモナ・・・・

 これ、リードっていう僕オリジナルの武器なんだモナ。

 君たち人間の武器で言うと・・・そうモナね・・・・薙刀っていう武器に近いモナ」

「へえ・・・ミジンコ脳みそにしては随分と人間界のこと知ってんじゃん!!」

「ついでに言うとね、僕のIQは320以上なんだモナ」

「あいきゅー?ナニソレ?やっぱお前馬鹿だわ・・・。」

戦いが始まった・・・・。


「アヒャヒャヒャヒャ!!そろそろガソリン無くなってきたんじゃねーの!?」

「お前こそ体力ってのはねえのかよ!!!」

中央区では兄者とつーのデッドヒートが繰り広げられていた。

つーはビルとビルの間を飛びぬけ、その手に持つ赤いナイフを執事を投げる。

一方、執事も「あるビル」へとバイクを全速力で飛ばしながら、飛来してくるナイフを避けていた。

赤影は執事の叫びに答える。

「アヒャヒャヒャヒャ、バッカじゃねーの?管理AI・・・それもつー様に体力があると思ってんのカ!?」

執事は跨っているバイクの燃料ゲージを見る。

ゲージは無常にも10分の1ぐらいを指していた。

これではあと5km持つか持たないか・・・・。

突如、執事の跨るバイクで何かがゴンッと音を立てた。

執事は驚いて音のした後ろを見る。

「くっ!!また燃料タンクをっ!!!」

執事の見た光景。

それは燃料タンクに突き刺さる赤く光るナイフだった。

さらに不運なことにそのナイフはすぐに消え失せ、開いた穴からまた燃料が漏れ出す。

固いアスファルトの上に執事の進んだ道を指し示すような不透明な液体が流れ出た。

「やばい・・・これじゃもう殆ど持たないっ!!」

「アヒャヒャヒャヒャ!!悪かったナ!!ワザとしちまったっ!!!!!」

「誤ってすむなら俺のバイク弁償しやがれ!!!!」

「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!わりーな!!お前ここで死ぬから弁償できねえんだよっ!!!」

しかし、突如執事の口の両端がつり上がった。

つーの言った言葉に笑ったのか、それとも他の理由なのか。

「よっしゃぁっ!!・・・俺の勝ちだ!!」

「アヒャ!?とうとう頭クルッタか!?」

執事が口の端を吊り上げた理由。

それは単純に「目的としていた物」が見えたからだった。

そう、それはいそのたちのいるビルとは真向かいのビル。

執事はそこへ向かって残りの燃料すべてを使いきれるようにバイクの速度を上げ始めた。

そしてビルの中に入るなり階段をバイクで登り始める。

「いでっ!!!!じだがんだ!!!(いてっ!!!!舌噛んだ!!!)」

「アヒャヒャヒャヒャ!!バカじゃn・・・いで!!舌噛んだ!!!!」

この時執事の脳には二つの疑問が浮かび上がった。

一つは燃料が持ってくれるのか。

一つはこのバカにも舌があったのか。

そんなことを思いながら走っていると、薄暗い暗闇が漂う階段の先に一筋の光が輝いた。

それは屋上の光であり、執事にとっては希望の光。

「よし・・このまま・・・」

ーーーーー!!!!!

と、つぶやくと同時に屋上へと続くドアをバイクで突き破る。

同時にバイクの前輪がぷしゅ〜と気の抜けた音を発した。

どんどんとバイクのスピードが落ちてくるが、執事は気にせずに屋上を走り抜ける。

しかし、落ちるスピードが予想外に大きい。

「やべっ!!これヤバいんじゃないの!!??」

「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!ぜ・つ・ぼ・うだな!!」

後ろには相変わらず赤影がついてきている。

時速100kmのバイクについてこれるのだからその速さは半端なものではないだろう。

よくがんばったな、と執事は最後に心の中で呟く。

そして屋上の柵へと全速力でバイクを飛ばした。

「おわぁぁぁおあぁぁぁおxじゃdじえあんヴぁいおdんbf!!!!!!!」

奇妙な叫び声をあげながら執事は宙へと飛び出した。

まるで○Tのあの名シーンのように。

執事のその瞳の先にはいそのとシェアの待っているビルが聳え立っていた。

一方、つーは一瞬面食らったもののすぐに宙へと飛び出す。

赤く光るナイフをその手に握って。

「アヒャヒャヒャヒャ!!!逃がすはずねえだろぉっ!!!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(中央ビル)

執事から連絡を受けて以来、いそのはずっと広大な窓を見つめていた。

ガラス張りの巨大な窓には少しだけ明るくなり始めている太陽と、聳え立つビルが映っている。

しかし、今まで動きのなかったいそのに突如として動きを見せた。

「っ!!シェア!!さっき俺が言ってた事、やるぞ!」

というなり、握っていたピストルを窓に向けた。

それに見習うようにシェアもピストルを窓に向ける。

「シェアは俺が銃を撃って2秒後に引き金を引くんだぞ?

 タイミングをミスれば俺たち全員死ぬと思え!!」

「は、はいぃっ!!!」

めったに見せないいそのの真剣な顔にシェアはびびりつつもピストルをしっかりと握り締める。

1秒・・・10秒・・・20秒と、静寂がビル内に漂う。

しかし次の瞬間、耳を裂くような銃声がして、窓ガラスが大きな音を立てて割れた。

いそのがピストルの引き金を引いたのだ。

そして窓ガラスが割れたと同時に、そこからバイクが飛び込んできた。

それを確認したいそのは叫ぶ。

「今だ!!撃てシェア!!」

ーーーーーー!!!!!!!

パン!と乾いた銃声がビル内に響く。

それと同時に何者かが、窓のあった淵に飛び降りてきた。

「アヒャ!?」

飛び降りてきたのはつーだった。

しかし、次の瞬間にはつーはその場から消えた。

シェアの放った鉛弾に撃たれたのだ。

「ア〜ヒャ〜ァァァ〜〜〜〜」

と奇妙な叫びを上げながらつーは『40階』から地面へと落ちていく。

それからしばらく3人は我を忘れて唖然としていた。

しかし、一番早く立ち直った執事は作戦を見事にこなした二人に向かって右手を突き出す。

「よくやったぞ!お前たち!!」

「ははははは、そういう執事もよくやったな」

「それよりさっきのバカっぽいのが大きい執事が言ってた『管理AI』?」

執事は壊れたバイクから降りて、二人へと歩み寄る。

そして険しい顔をしながら呟いた。

「残念だがもうこの辺には生き残りはいそうにない・・・

 ということで他の地域行くぞ。

 たぶんここの場所もさっきの銃声でばれただろう」

軽くシカトされたシェアは顔を膨らませる。

いそのは執事の肩に手を置き、呟いた。

ナイフで掠れて血が出ているそのたくましい肩に。

「ところで執事」

「時になんだ?いそのよ」

しかし、お互いに言いたいことは分かっていた。

二人で顔を見合わせて、叫ぶ。

「「流石だよな!俺ら!!」」

Nightmare City 地下鉄)

電車の速度によってすごい風圧が発生する電車の上。

そんな悪条件の中でサクヤはモナーとの戦いを続けていた。

「くそぉぉっ!!!なんで一発もあたらねえっ!!」

「それは君が弱いからだモナ。頭も体も・・・ね」

「んだとっ!!!!」

逆上したサクヤはその手に持つ太刀をめちゃくちゃに振り回す。

だがモナーの持つ「リード」にすべて弾かれた。

それでもサクヤはとにかく太刀を振り回す。

「うおおおらぁぁぁ!!(くっ!もうあんまし体力残ってねぇ!!!!)」

それでも太刀を握る手を止めることは出来なかった。

一瞬でも動きをやめたら、モナーの持つ薙刀に体を貫かれてしまうから。

それだけサクヤは不利な状況なのだ。

太刀を振り回しながらサクヤは考える。

「(それになんだっ!?コイツ・・・さっきから俺の動きを読んでるのか!?)」

「正解モナ」

「っ!!!???」

口を動かしていないのにモナーに話しかけられた。

それに驚いたサクヤは一瞬、攻撃の手を緩める。

風景がすごいスピードでスクロールしていく。

「油断しちゃいけないモナよ?」

「っ!!」

サクヤが心の中でしまった!と思うのと、体に激痛が走るのはほぼ同時だった。

モナーの武器に吹っ飛ばされたサクヤは電車の上を転がる。

更に風圧も手助けをしてサクヤを電車から落とそうとした。

しかし、電車の端から宙に落ちそうになる瞬間、サクヤは手を差し出し電車の端を掴む。

同時に左肩に激痛が走った。

「ぐあぁぁぁっ!!!」

激痛が体全身を電気のように走り回った。

それでもサクヤは耐えて、電車の上へ登ろうと力を入れる。

しかし、電車の端を握るサクヤの手の甲に痛みが走った。

サクヤは何とか顔を上げて、自分の手の甲へと足を乗っけているモナーを睨み付ける。

「な・・・なんで俺の考えてることが分かった!!!」

「僕のこの武器はその名前『リード』って言うとおり、相手の行動を先読みできるモナ

 それに合わせて僕は防御してたモナ」

「ぐあぁっ!!!」

ギリギリとサクヤの足を踏みしめるモナー

最後に、とモナーは呟いた。

「そうそう、最後だから教えてやるモナ。

 君達がいろいろと生き残りのテスターを探しているのは知ってるモナ。

 そして・・・・南区に行っている『㎡』ってやつ・・・確実に死ぬモナ。」

「ん・・んだとっ!?」

「南区には僕達の中で『最強』の№『1』を持つ管理AI『モララー』が待ってるモナ。

 彼にかかればどんなやつだろうと殺されるモナ・・・って言っても君もここで死ぬんだけどね」

そういってモナーは緑色に光るその武器を振り上げた。

と、思うと同時に振り下ろす。

ーーーーー!!!!!

電車に、空中に、モナーに赤い血が飛び散った。

おそらくサクヤの血だろう。

通常ならここで殺したと確信して武器をしまうはず。

しかしモナーは武器を握り締め、遠くの路線を睨み付けていた。

風景がものすごいスピードでスクロールしていく中、彼は呟く

「・・・・・あ〜あ、逃がしちゃったモナ」

Nightmare City 地下鉄路線)

「くっ・・・・体が・・・痛てぇっ!!!!」

サクヤは路線の上で蹲っていた。

彼女の左肩には十字状の切り傷が刻まれている。

そしてそこからポタポタと血が路線に垂れ落ちていた。

「・・・ってか、ここは中央区駅・・・」

彼の瞳には「中央区駅」と大きく書かれた看板が映っていた。

サクヤは残っている力のすべてを出し切り、駅のプラットホームへと上がる。

そして呟いた。

「くっ!!!・・・㎡・・・・死ぬなよ・・・!!」

自分が死に掛けているのに親友のことを心配する。

そんな自分に苦笑いを浮かべたサクヤ。

そしてフラフラと頼りない歩き方で、出口へと向かっていく。

太刀を杖にしているが、限界というものがある。

サクヤは心の中で大きく叫んだ。

”㎡!!!!俺がそっちに行くまでぜってぇくたばんじゃねえぞ!!!!!”




続く