ヤミノタタカイ

降りしきる雨の中

一人のメイド服の少女がうつぶせに倒れこんでいた

腹部からは血が、とめどなく流れる


口から漏れる嘆きの音が

言葉を紡いで闇夜へ漂う――



サクヤ「うっ・・・ちくしょう・・ 」


 ―諦めろ―


サクヤ「うるさい・・」


 ―諦めろ神月―


サクヤ「黙れ・・・・・なんでシェアが・・・・」


 ―カミサマと巫女様が 私達を理想郷へと―


サクヤ「シェアを・・返せ・・妹を・・・返せよ」




『カミサマ』 それは、この国を管理し、未来を予知する大規模な人工知能

『巫女』 それは、カミサマの声を聞き、人々に伝える唯一の人間

カミサマと巫女は、この国の未来への道標となり、人々はそれに従って暮らしていた。



“たとえそれが、「いかなる犠牲」を伴うものであろうとも”





?「カミサマ・・もうすぐこの国は理想郷に辿り着きます。」
この国の中央に存在するカミサマと巫女が住む聖域「ヤシロ」
禁断の領域内で繰り広げられる数々の思惑

?「私達がずっと願ってきた・・理想郷に・・」
そう、つぶやくのがこの国の救い手。巫女。




サクヤ「カミサマのおひざもと・・か、ホント凄まじい勢いで発展したもんだ・・」
高度を増し、快適を求め、発展してきたこの国
つい最近まで「近未来」が良く似合う景色が、目の前に広がる

サクヤ「でも・・この街の人たちの笑顔は見たことがない・・」
遊歩道の手すりに身を預け、街を見下ろすサクヤ。
サクヤ「まるであやつり人形だな、みんなカミサマの言うとおりに行動する」
この国の人々は、カミサマに従えば全てが上手く行く。そう教えられる。
中には反発するものもいるが、先の知れたこと。結局のところ従うしかない。

サクヤ「たとえそれが・・・誰かの命を奪うことでも・・」
サクヤの手には原始的な武器。剣が握られていた。
柄から伸びる2本の銀色の刃が、先端でひとつに交わる、中空の両刃刀
その不気味な銀にサクヤの顔が反射する。




ルピア「なんだよこいつ、巫女様の言うこと無視するのか?」
㎡「やめとけって、こいつに何言ったって無駄だ」
3人組の少年が道端で少年と激しく言い争っていた

「うるさい!未来の為とか言って・・カミサマは俺の彼女を!」
激しく怒号するいその。その苦虫を噛み潰したような顔は、小刻みに震えていた

㎡「それで?カミサマに復讐でもするか?」
いその「ぐっ・・・・」
㎡「どうせカミサマに逆らったって、おれたちゃ何も出来やしないんだ」
それだけ言い放って踵を返す。辛いのは自分だけじゃない。

いその「・・・どうして・・・」
一人たたずむいそのの頬を涙が伝う
わなわなと震える華奢な手を、強く握り締めて―


「ヤシロ」へ続く連絡路を一人の少年が音もなく走る
その手に握られるのは、鈍い重い光を放つ、「拳銃」
そのいそのは「ヤシロ」の入り口へ到着すると、踏みとどまった。

「「覚悟」はもう出来てる・・」
と、不意に後ろから

サクヤ「何してるんだ」
いその「!!」
サクヤ「ここで見たことは黙っておいてやる、今すぐ引き返せ」
そこに立っていたのはサクヤ。神月サクヤだった。

「来るな!てめえみたいな妖怪メイドに何が分かる!」
キッと銃口をサクヤに向ける
銃を持つ手は恐ろしいまでに震えていた

「妖怪・・・か・・・」
そう呟くとサクヤは持っていた剣を構え、いそのの方へと走った。
走るという表現よりは「飛んだ」いう表現の方が適切だろうか。
距離にして10m。一瞬だった。いそのの持っていた銃は真っ二つに裂かれた

サクヤ「お前みたいな子供に何ができる。消されて・・・それで終わりだ」
いそのは悲痛の表情をこぼし、来た道を引き返した。

サクヤ「シェア・・・」

サクヤは「ヤシロ」の入り口へと足を踏み入れた。
砂漠のような空間の中央に、ピラミッドのような構造物が建っているのが見える。
あれが、カミサマと巫女が住むこの国の管理施設。「ヤシロ」

と、足を踏み入れると同時にけたたましいほどの警報が鳴り響く
「シンニュウシャ、シンニュウシャ。警備ロボットハ排除にアタレ」

ざっと20機。「ヤシロ」から警備ロボットが現れる。
陸上型のその機械たちは、一斉にその砲口をシンニュウシャへと向ける

サクヤ「チッ・・」
正面から迫り来る閃光。その全てが砲弾
軽く体をかがめ、その荷重を前方へとずらす。
爆発的な踏み込みを持って一気に間合いを詰める

サクヤ「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる・・ってか」
的確に砲弾の軌道を読み、確実に交わしていく

サクヤ「当たらなきゃ、意味ないな」
剣の間合いにまで近づいた。
剣を構えなおし、右から左、左から右上、右上から下。
流れるように切っ先を動かす。計3回

機械とサクヤがすれ違う。
ほんの数秒。時差の後、機械は二つに裂かれる。
音もなく切り裂かれたスクラップはガラガラと崩れる

サクヤ「あと17・・」
その後も的確に地を這う砲台を切り刻んでいく。
目的はここにはない。
ひとしきり切り終えた後、ふぅ、吐息を吐く。

サクヤ「まだいるんだろ、早くよこせ」
静寂が広がる空間。嵐の前の静けさといったところか
突如、空気が振動する。

サクヤ「ちぃ、空かよ・・」
空に目をやるサクヤ。空から小型戦闘機が迫る。
その戦闘機が目標を定め、一斉に砲弾を放つ。
徐々に着弾地点が対象へと近づく。
着弾の後は軽く地面がえぐれ砂埃を舞わせる。

サクヤ「くそ・・・届くか・・・」
剣を後ろに大きく振りかぶり、力を溜める。
肩を支点に振り子のように大きく腕を振り、斬撃の軌道を空へと運ぶ

剣にたまった衝撃は、遠心力と共に体を離れ、中を舞う。
円盤状に圧縮された高エネルギーは威力を落とすことなく、空を舞う集団へと向かう
そのエネルギーが敵機に触れた途端。

「ドゴォォォォォ!!!」
大きな轟音と共に爆発の連鎖が起こり、次々と機体が落ちてくる



?「人間は愚かだ、絶えず争い、そして滅びを繰り返す」
?「だから私がカミサマの声を受け、民を導いていく」
「ヤシロ」の中から全てを見ていた巫女が、呟く。
液晶に表示される国民のデータ。
その中からピックアップされる数名のデータ。
そのデータたちに、抹消線が引かれる。
 ―――データ抹消――――



サクヤ「次はどいつだ・・」
疲れを知らないその体は、見越したように相手の手を探る
目の前に現れたのは、自分の3倍はあろうか、大きな戦車のような警備ロボット

サクヤ「またデカイのが来たな・・」
その機体は、体系に似合わぬすばやい動きで
2本の板状の腕を凄まじい勢いでぶつけてくる
とっさに避け、反撃をするも

「ガキィィィィン!!」
サクヤ「なに・・・!」
硬い装甲にやわな攻撃は通らない
すかさず体勢を整えるも上から腕が振り下ろされる。

サクヤ「く・・そ・・」
必死の思いでうけとめるももう片方の手が飛んできて

サクヤ「ぐぁっ・・・!!」
わき腹を直撃。大きく後方へと身を転がす

サクヤ「こんなところで負けるわけには・・・!!」
受身を取り、勢いで敵機の懐へ飛び込む
直後に振り下ろされる2本の鉄槌を避け、高く飛び上がる
高く、高く。

サクヤ「うおあぁぁぁぁぁ!!!!」
大きく上に振りかぶった剣に力を溜める。
すると、剣自体が淡い、緑色に光りだす。
その光は、剣を何重にも囲い、とてつもなく大きい虚像を作り出す。
重力に任せ、その剣を振り下ろす。
地面につくと同時に、敵機を上から下へ、斬り抜く。
少し遅れて衝撃波が周りへ広がる。
空へ伸びる1本の緑の光が、世界を一瞬だけ覆った。



ひで「悪く思うな、これも巫女様が伝えた「カミサマのおぼしめし」だ」
多くの群集に囲まれた一人のいそのに銃を向ける大人。
「カミサマがその男を殺せ」と と巫女が言った。
神様の言うとおりにしていれば・・ 
周りに、止める人はいない。いつだってそうしてきた。カミサマに従えば・・

その群集の中に一人の青年。
囲まれているいそのの姿を見、大きく目を見開く

㎡「・・・!!あいつは、さっきの!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ルピア「なんだよこいつ、巫女様の言うこと無視するのか?」
㎡「やめとけって、こいつに何言ったって無駄だ」

いその「うるさい!未来の為とか言って・・カミサマは俺の彼女を!」

㎡「それで?カミサマに復讐でもするか?」
いその「ぐっ・・・・」
㎡「どうせカミサマに逆らったって、おれたちゃ何も出来やしないんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
先ほどのいその。カミサマに彼女を奪われた、
一人、「ヤシロ」へ踏み込もうと、あえなく抑止されたいその

㎡「おれたちには何も出来ない・・何も出来ない・・何も・・?」
ひとつの疑問が少年を大きく変えた

㎡「うぉぉぉぉぉ!!!!」
それを目撃した少年は群集を掻き分け、中心部へと出る

㎡「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
銃を構えた男性の腕にしがみつき、それを阻止しようとする

ひで「なんだ、このガキッ!!離しやがれ!!カミサマに逆らう気かっ!!」
㎡「くそぉぉぉ!!離すかぁぁ!!!!」


サクヤ「はぁ・・はぁ・・」
「ヤシロ」に現れた人影
神月。その荒れた呼吸と足音がこだまする
中には大きなコンピューター。
その前に立つ女性。

サクヤ「な・・・!」
突如、巫女の上に光が集まる
その光は集約され、行き場を失った高密度のエネルギーがサクヤへと牙を向く

サクヤ「ぐわぁぁぁっ!!」
矛先を向けた光はサクヤの体を貫く
持っていた剣が宙を舞い、数回転した後、床に刺さる
その重さたるや、尋常ではないはず。


?「20年間も、カミサマを恨み続けたか」
こちらを振り返った巫女の声が「ヤシロ」内に響く

?「そんなガラクタの体になってまで己が運命に抗うか!神月サクヤ!」
巫女が声を荒げる。

サクヤ「運命・・?運命が避けられない道なら、私の運命は・・これからだ・・」

サクヤは尚も立ち上がった。
服は破れ、皮膚は剥がれ落ち、骨はむき出しに。
しかし、そこにあるそれは、人間のものではなかった。

骨の変わりに鉄骨が。神経の変わりにケーブルが。
体のいたるところからショート音と漏れた電気が爆ぜる

サクヤ「恨んでなんかいない・・・」
そう、呟き、刺さっている剣を手に取る。
剣は、再度淡い緑色を放つ。持ち手の意思を汲み取るように。淡く。儚く。

サクヤ「私は・・ただ・・」
うつむいて小さく深呼吸をし、顔を上げて叫ぶ

サクヤ「妹の笑顔を取り戻したいだけだ!!」
剣を構えなおし、ぼろぼろのガラクタの体になりつつも意思を見せる

サクヤ「闇魔館に帰るぞ!シェア!」
その言葉に、巫女は顔をしかめた。
どことなく見下したその表情に。その瞳の奥に。
その真意を汲み取ることが出来るのはどちらになるのか。

その行き着く先は、「カミサマ」にも分からない。




            終劇